HIBINO NAOKO illustration

Diary

〈読んだ本〉七時間半(獅子文六著・ちくま文庫)

舞台は1960年頃、東京ー大阪間を運行していた特急「ちどり」の車内。
食堂車で働くサヨ子とコック助手の喜一の恋愛に、客室係有女子(うめこ)の
邪魔が入ってひと悶着。
この有女子は美しい客室係に与えられる称号「ちどりガール」として
世に名の通っているほどで、喜一の他にも思わせぶりな態度を振りまきつつ
値踏みをしている男が3人いる。家柄もよく学者への道が約束されているのに
ちっとも魅力を感じられない甲賀、一緒になったら幸せな家庭を望めそうだが
平凡な日々に身を貶めることになりそうな会社員佐川、
妻に先立たれた富豪でハゲ頭の岸和田。喜一を含めた4人それぞれが
有女子の振る舞いに翻弄されている。
新型車両の台頭により間もなくの廃止がささやかれている斜陽特急の「ちどり」。
その廃止に依る配置転換で“列車を降りたときの身の処し方”について
有女子もサヨ子もあれこれ画策し、そうした計算が二人のみならず様々な人物の
思惑と重なりなり穏やかでない車中となる。
東京を出発した特急「ちどり」が大阪へ着くまでの7時間半
食堂車を中心とした恋愛模様に加え思いがけない騒動をまき起こしながら
列車は西へと進んでゆくが、その列車の運行を支える人たちの様子やその組織、
車両の仕様に加え車窓の風景、人気の土産物などについて細かい描写があり、
も社会科見学気分で楽しめる。
さらには文中に作者自身がちょいと顔をだす。「ちどり」に乗り合わせた首相の
納税額と作者である獅子文六のとを引き合いにだしたりして
そこかしこに読者をニヤリとさせる仕掛けが潜んでいる。

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